2018年1月1日から導入されたつみたてNISA。「長期・積立・分散」投資を支援するために、国が用意した税制優遇制度です。
いわゆる「老後2000万円問題」が騒がれたこともあり、2021年9月末時点のつみたてNISA口座数は305万口座にも上ります。2020年末と比較して76.6%も増加し、特に20代・30代の利用者数が多いです。
(参照:日本証券業界 「NISA口座開設・利用状況調査結果(2021年9月30日現在)について」)
そんな大人気のつみたてNISAですが、場合によってはデメリットしかなくなる可能性があることをご存じでしょうか。
今回は、つみたてNISAのデメリットを中心に解説します。
メリットとデメリット、双方を把握したうえでつみたてNISAを利用するか判断しましょう。
つみたてNISAのおさらい
まずはつみたてNISAの概要を簡単に紹介します。
すでにご存じの方は読み飛ばしてください。
利用できるひと | 20歳以上の日本国内居住者 |
---|---|
年間投資上限額 | 40万円 |
購入方法 | 積立のみ |
対象商品 | 長期投資に適した投信・ETF |
投資可能期間 | 2042年まで |
非課税期間 | 20年間 |
ロールオーバー | なし |
運用管理 | 本人 |
金融機関の変更 | できる |
つみたてNISAのメリットをシンプルにまとめると以下のとおりです。
- 投資による利益(譲渡益や分配金)が非課税になる。非課税対象投資額は最大800万円(年上限40万円×20年)
- 対象商品は金融庁が定めた条件をクリアした低コストファンドのみなので、投資初心者でも選びやすい
- 毎月1,000円~など、少額から利用できる(金額は金融機関によって異なる)
- ドルコスト平均法により平均購入単価を低めにできる
- 設定した間隔で定期的に購入するため、投資タイミングを見極める必要が無い
上記のとおりたくさんのメリットがあり、投資初心者でも利用しやすい制度になっています。国や専門家が熟考して練り上げた制度ですので、しっかりと設計されているのも納得ですね。
なお一般NISAとの比較やつみたてNISAでおすすめの投資信託など、つみたてNISAに関連した記事を複数用意してあります。
これからつみたてNISAの利用を検討している方は、理解度をより深めることができると思いますのでぜひご覧ください。
つみたてNISAのデメリットだけが表れるケース
ここで、「そんなにメリットばかりの制度なら、どこにデメリットがあるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
結論から言えば、損失が出た場合につみたてNISAのメリットは消失します。具体例をいくつか見てみましょう。
ケース① つみたてNISAの有効期間終了時に含み損がある
つみたてNISAの非課税期間は20年です。さて、非課税期間満了時に売却せず継続して保有する投資信託やETFの取り扱いはどうなるのでしょうか。
答えは「つみたてNISA口座から課税口座(特定口座や一般口座など)に移管される」です。ただし、ここで注意点があります。それは、
課税口座における取得価格は、口座移管時の基準価額等になる
ということ。例えば、つみたてNISAでの取得価格が15,000円のファンドが口座移管時に20,000円だった場合、20,000円が課税口座における取得価格になります。
含み益が出ている場合、上記取り扱いは有利に働きます。いずれそのファンドを売却する際、本来の取得価格は15,000円だけれども、20,000円を取得価格として利益計算するためです。利益幅の減少=節税に役立ちます。
一方、不利になるのが含み損がある場合。上記の15,000円のファンドの評価額が口座移管時に10,000円だったとしましょう。その後、112,000円に値上がりしたタイミングで売却したとすると、本来であれば3,000円の損失が出ているにもかかわらず2,000円の利益が出ているとみなされ課税されてしまうのです。
とはいえ、過去のデータを見ると、長期で運用するとかなりの確率で利益が出るという事実があります。つみたてNISAの非課税期間である20年という年数も、この点を考慮して決定されたようです。
理論上は上記のケースはあり得るものの、現実的にはそこまで心配しなくていいのかもしれません。
ケース② 損益通算と繰越控除が認められない
損益通算と繰越控除は、主に節税目的で確定申告時にトピックによく上がります。まずは損益通算から説明します。
しかし、つみたてNISAで購入した投資信託やETFで発生した損失は損益通算に使えません。先ほどの例で言えば、もしBファンドをつみたてNISAで購入していたら損益通算できないため、Aファンドの利益にかかる税金203,150円を納めることになります。
そして、損益通算が認められないということは、損失の繰越控除もできません。
投資信託、上場株式、公社債等の取引により生じた損失は、確定申告することで翌年以降に繰り越すことができます。
先ほどの例ではBファンドの損失額は20万円でしたが、ここでは150万円の損失が出たとしましょう。すると、Aファンドの利益100万円-Bファンドの損失150万円=50万円の損失となります。この50万円の損失は、確定申告することで翌年以降に繰り越せるんです。
例えば、翌年はCファンドによる200万円の利益が出たとすると、繰り越した50万円をこの200万円から控除して150万円の利益と取り扱うことができます。これが損失の繰越控除です。当然、利益が減った分税金も安くなります。
けれども、BファンドをつみたてNISAで購入していたら、そもそも損益通算できず損失の繰越控除も使えないというデメリットがあります。
つみたてNISAが向かない人は?
ここまで、つみたてNISAのデメリットしかないケースを紹介しました。ここからは、デメリットしかないと言うほどではないけれども、つみたてNISAの使用をおすすめできない人をピックアップします。
以下の5選に該当する人には、つみたてNISAはあまり役に立たない制度です。
- 短期間で莫大な利益を得たい人
- 余裕資金が多い人
- 何が何でも元本割れしたくない人
- 長期で投資できない人
- スイッチングをしたい人
詳しく見ていきましょう。
短期間で莫大な利益を得たい人
つみたてNISAは長期・分散投資目的で設立された制度です。そのため、短期間で資産を何十%、何百%も増やしたい人には向きません(ちなみに株の年平均リターンはおよそ5~7%と言われています)。
短期で資産を倍増させるには、FXや信用取引、暗号資産(仮想通貨)といったハイリターン商品を検討することになるでしょう。ただし、元本割れどころか借金を背負うこともあるハイリスクを覚悟する必要があります。
余裕資金が多い人
既に多額の資産があり、まとまった額を運用したい場合も、つみたてNISAはあまり役に立ちません。なぜなら、つみたてNISAは年間40万円という上限枠があるからです。また、対象商品も一部の投資信託とETFに限定されています。
一般NISAは年間の上限額が120万円ですので、大きな金額を投資したい人、個別株やリートを買いたい人は一般NISAを活用しましょう。
何が何でも元本割れしたくない人
こういう人は、つみたてNISAに限らず投資自体に向いていません。投資するとしても、一部の元本保証型のローリスク商品となるでしょう。
少しの下落はまさに日常茶飯事。暴落というレベルでもITバブル、リーマンショック、コロナショックと、歴史上何度もありました。そして、これからもあるでしょう。暴落自体が市場のプロセスだからです。
暴落は大きな利益を獲得できるチャンスでもあるのですが、一時的な含み損だとしても元本割れしたくない人はつみたてNISAには不向きと言えます。
長期で投資できない人
つみたてNISAの非課税期間は20年です。それは、運用期間が長くなると利益が出る確率が高まるからです。逆に言えば、短期での運用の場合、タイミングによっては損失で終わることもありえます。
投資の基本は、余裕資金で運用すること。日々の生活に余裕が無い、既にある程度の高齢であるなど、長期運用が見通せない方にはおすすめできない制度です。
スイッチングしたい人
長期間運用していると、現在の投資信託を売却して別の商品を買いたくなることもあるかもしれません。
この預け替えのことをスイッチングと言いますが、残念ながらつみたてNISAではスイッチングはできません。既に保有しているファンドを売却した時点で、売却分の非課税枠が使われたことになります。
20年という運用期間の中では、途中で運用方針や資産配分を変えたくなることも考えられます。しかし、保有商品を売却するとつみたてNISAのメリットは消えてしまうのです。
つみたてNISAは結局利用すべき?
以上、つみたてNISAのデメリットや利用に向かない人を中心に解説してきました。冒頭でも述べたとおり、良い点も悪い点も含めて特徴をしっかり把握することが大切です。
なお、筆者はデメリットを踏まえても利用するメリットの方が大きいと結論付けます。なぜなら、
- つみたてNISAは投資初心者向けに精緻に設計された制度
- 長期間運用することで利益が出せる確率が非常に高い
- 合計800万円分の非課税枠は大きい
と考えているからです。
少子高齢化などの影響により、自身での資産形成のニーズは高まる一方の世の中。
せっかく国が用意してくれた制度を上手に活用し、資産の最大化を図りましょう。
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